「小さな一歩を踏み出そう」という記事を、夜中に読み終えたことがあります。いい話だな、と思いました。明日から何か始めよう、とも思いました。そして翌日、僕は何も始めませんでした。数日後に残っていたのは、動けなかった自分への嫌気だけでした。

この記事は、そういう夜を知っている人に向けて書いています。「行動しよう」と言われるたびに、少し苦しくなる人へ。先に結論を書きます。一歩が無理なら、一ミリでいいのです。そして動けない日があっても、それは後退ではありません。

「小さな一歩」は、意外と大きい

世の中で「小さな一歩」と呼ばれるものを、よく見てみてください。「誰かに話しかける」「朝早く起きる」「何かに申し込む」あたりが定番です。どれも、僕にとっては小さくありませんでした。緊張しやすい人間にとって、人に関わる行動は特に大きな一歩です。それができないのは、意志が弱いからではないと僕は思っています。単に、階段の一段目が高すぎるのです。

高すぎる段の前で立ち止まるのは、自然なことだと思います。僕に必要だったのは気合ではなく、段差そのものを削ることでした。

ミリ単位の一歩の例

僕が実際にやってきた、ミリ単位の一歩を並べます。

  • 気になる記事を、読まずにブックマークだけする
  • 本を買わずに、タイトルをメモしておく
  • 5分だけ調べて、やめる
  • メッセージの下書きだけ書いて、送らない
  • 明日やることを、一行だけ書いて寝る
  • 申し込みページを開いて、眺めて、閉じる

「そんなの意味があるの」と思うかもしれません。僕は、あると思っています。ブックマークした記事は、いつか読む日のために場所を取ってくれています。下書きは、送る日の自分に宛てた引き継ぎ書です。開いて閉じただけのページも、二回目に開くときはもう初めてではありません。ゼロと一ミリの間には、見た目よりずっと大きな差があるのです。

それに、一ミリなら失敗のしようがありません。ブックマークに緊張する人はいないからです。「できた」で終わる行動を積むうちに、動くこと自体への構えが少しゆるみます。僕の場合は、そうやって次の一ミリが少しだけ軽くなりました。

コツは、一ミリを「準備」と呼ばないことです。準備と呼ぶと、本番をやらない限り成果ゼロのように感じてしまいます。そうではなく、ブックマークはそれ自体が完了した一つの行動です。今日の分は今日で完結している、と考えるほうが僕には長続きしました。

動けない日は、後退ではありません

ミリ単位にしても、動けない日はあります。僕にも、今でも普通にあります。そういう日、以前の僕は「また元に戻ってしまった」と落ち込んでいました。

でも、考えてみれば変な話です。昨日ブックマークした記事は、今日動けなくても消えません。書いた下書きも、調べた5分も、なかったことにはならないのです。積んだ一ミリは、動けない日にもそこに残っています。だから動けない日は後退ではなく、ただの休みです。むしろ、休む日があることを前提に進むほうが、現実に合っています。

もう一つ、僕が助けられた工夫があります。一ミリを、どこかに書き残しておくことです。メモアプリに「記事をブックマークした」と一行書くだけで構いません。動けない日に見返すと、ゼロではなかった証拠がそこに残っています。記憶はすぐ「何もしていない」と言ってきますが、記録は事実を覚えています。

比べる相手にも気をつけたいところです。隣のよく動ける誰かと比べると、一ミリはみじめに見えます。でも比べる相手を先月の自分にすると、ブックマークの数だけ進んでいます。僕は、後者の物差しで暮らすと決めました。

「変わらなきゃ」を、いったん置く

そもそも、の話をさせてください。あなたは本当に、大きく変わらなければいけないのでしょうか。僕は、人見知りや緊張しやすさを、無理に直す必要はないと考えています。そのままの気質と付き合いながら、暮らしを楽にする工夫はできます。この考え方は人見知り・あがり症は「治さなくていい」に書きました。

目指すのは、別人になることではありません。今の自分のまま、暮らしを一ミリ楽にすることです。今の気質を足場にする考え方は、話せなくても、強みで生きていくにまとめています。そう考えると、焦りは少し減って、一歩の向きも変わってきます。

一緒に、進みましょう

最後に、これだけは伝えさせてください。僕は今も、緊張と不安を抱えたまま暮らしています。先を歩く先生ではなく、同じ道を少し先で歩いている人間です。だから「頑張れ」とは言いません。代わりに、こう思っています。一ミリずつでいいから、一緒に進みましょう、と。あなたが今日一ミリも動けなくても、この場所は明日もここにあります。

ただ、動けない状態が長く続いて、生活につらさが出ているときは、無理をしないでください。カウンセラーなど専門家に相談するという選択肢もあります。