自己紹介の順番が回ってきて、最初の一言を口にする。その瞬間、声が細かく震えているのが自分でわかる。「今、絶対バレた」と思うと、余計に震えが強くなる。

僕も、プレゼンで声が震えたとき、全員に気づかれたと思い込んでいました。あとで同僚に聞くと、返ってきたのは「そうだった?」という一言。

人前で声が震えるのは、緊張したときに多くの人が経験することだと思います。この記事では、まず「周りにどれくらい伝わっているのか」を心理学の研究から考えます。そのうえで、震えたまま話すための工夫と、相談先の目安をまとめました。

先に結論:震えは、思っているほど伝わっていないことが多い

最初に、この記事の結論を書いておきます。

  • 人は、自分の緊張や気持ちが外から見える度合いを、実際より大きく見積もりやすいと報告されています
  • 発表の実験では、「緊張は思うほど見えていない」と事前に知った人のほうが、発表の評価が高かったと報告されています
  • ただし研究が扱ったのは緊張の見え方全般で、声の震えそのものではありません
  • 震えを消そうとするより、震えたまま話す工夫をしたほうが楽になる、と僕は考えています
  • 緊張していない場面でも震える、長く続くといった場合は、医療機関への相談も考えてください

震えたからといって、話す資格がないわけではありません。

「バレている」と感じる正体:透明性の錯覚

自分の内側は、思うほど外に漏れていない

コーネル大学のトーマス・ギロヴィッチらは、人が「他人からどう見えているか」を判断するときの偏りを研究してきました。

その研究のまとめ(1999年)で取り上げられているのが、「透明性の錯覚」です。自分の内側の状態、たとえば緊張や動揺が、実際より外に漏れて相手に見えていると思いこむ傾向のことです。

人は、自分の体験を基準にして「どう見られているか」を判断しがちだ、と説明されています。自分の中では、心臓の音も、声の震えも、はっきり感じられます。だから、相手にも同じくらいはっきり見えていると感じてしまうのかもしれません。

発表の不安が軽くなった実験

サヴィツキーとギロヴィッチは2003年に、スピーチの実験を報告しています。参加者は、即興でスピーチをしました。

話し手たちは、自分の緊張が聞き手にどれくらい伝わったかを、実際より大きく見積もっていたそうです。さらに、事前に「緊張は思うほど相手に見えていない」と説明を受けた人もいました。その人たちは、説明を受けなかった人より、スピーチの評価が高かったと報告されています。

もちろん、これは実験室での短いスピーチの結果です。すべての場面に当てはまるとは限りません。また、この研究が調べたのは緊張の見え方全般で、声の震えそのものを測ったわけではありません。それでも、「バレている」という感覚そのものを疑ってみる価値はある、と僕は受け取りました。

震えを消そうとすると、かえって気になる

僕は以前、「緊張しないようにしよう」として、自分の声の震えを監視していました。そうすると、震えはかえって気になり、悪くなっていく一方でした。

僕の場合は、震えに意識を向けるほど、震えが大きく感じられました。

だから、目標を変えてみる方法があります。「震えないこと」ではなく、「震えたままでも伝わること」を目標にするのです。

声が震えたまま話すための5つの工夫

ここからは、声が震えても伝わりやすくするための工夫です。研究で効果が確かめられたものではなく、僕が「こうすると楽になるのでは」と考えている方法です。どれも、震えを止める方法ではありません。

1. 最初の一言を、短く決めておく

震えやすいのは、話しはじめの一言です。「〇〇です。よろしくお願いします」のように、最初の一言だけ決めておきます。決めておけば、言葉を探す負担がひとつ減るはずです。

2. 一文を短く切る

長い文を一息で話そうとすると、途中で苦しくなることがあります。一文を短くして、文と文のあいだで息を吸う。短い文は、聞き手にとっても聞き取りやすいはずです。

3. 語尾まで言い切る

震えを気にしていると、語尾が小さくなってしまうことがあります。語尾が消えると、言いたいことがぼやけてしまう、と僕は考えています。「〜です」の「す」まで言うつもりで話してみてください。

4. ゆっくり話す

早く終わらせたくて、つい早口になってしまうことがあります。自分では少しゆっくりかな、と感じるくらいで話してみるのもひとつの方法です。

5. 「緊張しています」と先に言ってしまう

どうしても気になるときは、「少し緊張しています」と最初に言ってしまう方法もあります。隠そうとする力が要らなくなる分、話すことに集中しやすくなるのでは、というのが僕の考えです。ただし、合わない人もいます。言ったことで余計に気になるなら、やめて大丈夫です。言うかどうかは、場の雰囲気で選んでください。

声のつらさが強いときは

次のようなときは、ひとりで抱え込まず、相談することも考えてみてください。

  • 緊張していない場面(一人で話すとき、電話、家族との会話など)でも声が震える
  • 声の震えが何週間も続く、声がかすれる、息苦しさや手の震えもある
  • 言葉がつまる、同じ音をくり返すなど、話しにくさが強い
  • 人前に出る不安が強く、仕事や生活に支障が出ている

相談先の例は次のとおりです。

  • 声そのもの: 耳鼻咽喉科(音声外来のある病院もあります)
  • 話しにくさ: 言語聴覚士
  • 不安の強さ: 心療内科・精神科この記事は読み物であり、診断や治療の代わりにはなりません。

声のコンプレックス全体については、こちらにまとめています。→ 声にコンプレックスがある人へ

緊張との付き合い方は、こちらの記事が土台です。→ 人見知り・あがり症は「治さなくていい」

よくある質問

声が震えるのは、あがり症だからですか?

人前で緊張して声が震えることは、あがり症の人に限らないと思います。あがり症かどうかを、自分で決めつける必要はありません。緊張していない場面でも震える場合や、つらさが強い場合は、上の相談先を参考にしてください。

震えていることは、聞いている人にバレていますか?

研究では、話し手は自分の緊張が伝わる度合いを、実際より大きく見積もりがちだと報告されています。ただし、声の震えそのものを調べた研究ではありません。まったく伝わらないとは言えませんが、自分が感じているほどではない可能性があります。

震えを止める方法はありますか?

この記事では、止める方法ではなく、震えたまま伝える工夫を紹介しました。僕の場合は、震えを止めようと意識するほど、かえって気になったからです。