深夜の部屋で、僕はチャットAIに質問を打ち込んでいました。その日、職場で聞きそびれた初歩的な内容です。
先輩に聞けば数分で済んだはずでした。でも、「こんなことも知らないのか」と思われる場面を想像すると、声が出せませんでした。質問のタイミングを探しているうちに、先輩は席を立ってしまったのです。
画面の向こうのAIは、どんな初歩的な質問にも同じ調子で答えます。呆れないし、急かさないし、何度聞き返しても嫌な顔をしません。このとき僕は、話し下手にとってこれがどれだけ大きいかを実感しました。
「考えてから書ける」は、話し下手の土俵です
会話がつらい理由の一つは、「間」との勝負だからです。相手が待っている数秒の間に、答えを組み立てなくてはいけません。僕はこの即答が苦手で、いつも言葉が渋滞していました。
チャットAIとのやりとりには、この制限時間がありません。自分のペースで考えて、書いて、送る前に読み直せます。途中で消して、最初から書き直しても構いません。
思えば、会話で失敗するたびに「あと十秒あれば言えたのに」と悔やんでいました。文章の世界には、その十秒がいくらでもあります。
つまり、AIとのやりとりは最初から文章の世界なのです。即答の瞬発力ではなく、考えてから書く力で勝負できます。話すのは遅いけれど考えるのは好きだ、という人にとって、これは追い風です。
AIへの指示は、話術ではなく作文です
AIをうまく使う鍵は、指示の文章にあると僕は感じています。何を、どんな条件で、どんな形にしてほしいのか。それを文章で正確に伝えるほど、返ってくる答えの質は上がります。
これは、いわゆるプロンプトと呼ばれるものです。そして、その正体は書き言葉のスキルです。愛想も、声の張りも、場を盛り上げる力も関係ありません。
話し下手には、言う前に頭の中で整理しすぎる癖があります。「この言い方で伝わるか」「前提から話すべきか」と、いつも考えてしまう。会話ではこの癖が沈黙になりますが、文章では丁寧さとして表に出ます。つまり、僕たちが長年こじらせてきた癖は、AI相手には強みに変わるのです。
過信しない、という付き合い方
一方で、正直に書いておきたいことがあります。AIを使えば誰でもすぐに成果が出る、とは僕は思っていません。
AIの答えは、間違っていることがあります。それらしい文章で、事実と違うことを書いてくる場合もあるのです。だから、答えを確かめる目と、元の情報にあたる手間は省けません。
それに、良い答えを引き出す文章力も、一朝一夕には育ちません。質問して、答えを読み、聞き方を直して、もう一度質問する。この往復を重ねた分だけ、少しずつうまくなっていくものです。
ただ、この「確かめる」「書き直す」という地道な往復は、机の上の作業です。人前で声を張る場面は、一度も出てきません。積み重ねで伸びる力なら、話し下手は昔から得意なはずです。
話す前の、下書き相手にもなります
AIの使い道は、調べものだけではありません。僕がよくやるのは、話す前の下書きです。
たとえば、上司への相談があるとき。言いたいことをまず文章にして、AIに「この説明で伝わるか」と尋ねます。返ってきた指摘を見ながら、順番を入れ替えたり、前置きを足したりする。そうして整理された文章は、口で話すときの台本になってくれました。
言いにくいお願いの言い回しを、何パターンか出してもらうこともあります。そのまま使うわけではありません。それでも、選択肢が手元にあるだけで、切り出すのに要る勇気の量が減ります。頭の中だけで組み立てていた準備を、外に出して確かめられる。これは、即答の苦手な僕にとってありがたい変化でした。
文章で仕事が回る場面は、増えています
僕の見てきた範囲でも、チャットで進む仕事は増えました。連絡も相談もテキストで済み、AIへの指示もテキストで書く。そんな一日の中で、声を出す場面がほとんどないことさえあります。
この流れの中で効いてくるのは、「話せるか」よりも「書けるか」です。AIに的確な指示を書ける人は、同僚への依頼や報告の文章もうまくなります。書く力は、AI相手にも人間相手にも、同じように積み上がっていくからです。英語も同じ構図で、「書く英語」から始める考え方を別の記事に書きました。
話せないことを埋め合わせる話ではなく、これは強みを伸ばす話です。その全体像は話せなくても、強みで生きていくに書きました。AIは、その柱を一緒に積んでくれる相棒になり得ると僕は思っています。